kuruneetのメモ帳

kuruneetの備忘録的な最終処理場

推しが結婚した

 アイドル、特に異性のアイドル(俺の場合はアイドル声優だが)を推していく上で避けては通れない道、それが推しの結婚。

 

俺自身去年1月に出た熱愛報道からある程度の覚悟は出来ていた。が、いざ現実で目の当たりにすると覚悟というものはあっけないもので普通にショックで落ち込んだ。

 

たかが1人のオタクが推しと付き合って結婚…なんて前世で相当徳を積んでない限り無理だし俺自身そんなことは望んでいない。

 

それが特にファンが少ない地下アイドルならまだしも普通にファン数多いアイドル声優だからそういった気持ちを常に持っていたし、そもそも推しはあくまで"推し"であり恋愛対象ではない…そういうスタンスでいた""つもり""だった。

 

 

 第一報を知ったのは忘れもしない4月12日の正午。

 

その日は午後から第2志望の企業の面接があっていつも以上に緊張していた。

 

面接が13時からで会場も電車+徒歩で30分の大学内だったので正午過ぎまで自宅でツイッターをぼーっと見ていた。

 

正午をまわってそろそろスーツに着替えるか…と思いいそいそと着替えているときにふとツイッターのタイムラインを見るとそこには「おい、すずこが入籍したぞ」「三森さんおめでとうございます!」…と突然のことに頭の処理が追いつかず誰のことか分からないまま着替えを続行していたがふと冷静に考えると

 

 

「それ俺の推しじゃね?」

 

と。

 

 

急いで推しのツイッターページを見るとブログのリンクとともに一言。

 

 

「皆様へ」

 

 

数々の声優やアイドルの結婚発表を見てきた俺からしたらこの3文字だけで疑惑から確信に変わった。

 

大抵アイドルが結婚発表や交際公表する時の常套句だからだ。

 

恐る恐るリンクを押す。

 

 

リンクの先には、見たくなかった文字列が羅列されていた。

 

 

とりあえずざっと読んでページを閉じる。

 

その後ツイッターでみんなの反応を見た。もちろんみんな祝福していたし、それが当たり前の反応だ。

 

だがそれがどうしても俺には受け入れられなかった。

 

時間も迫っていたので一先ずパソコンの電源を落とし自宅から大学へと向かう。

 

いつもと同じ道。いつもと同じ風景。

 

いつもと同じなのに、どうしても踏み出す足がひどく重く感じる。

 

何も考えられなかった。何も考えたくなかった。

 

これからどうすんだ?ソロ活動は?声優は続けるだろうけど、ソロ活動辞めたらどうすんだよ?それに今後産休とかもあるのでは?

 

何も考えたくない頭に無限に疑問符が湧いてくる。

 

 

 

面接までまだ時間があったので研究室に立ち寄った。

 

研究室に入るやいなや、同期の声優オタクが「おい、みもりん結婚したぞ!」と。

 

一瞬どんな反応をすればいいのか迷った。悲しめばいいのか、笑えばいいのか。

 

はたまた怒ればいいのか。喜怒哀楽が俺の中でぐるぐると渦巻いていた。

 

とりあえず俺は笑いながら「知ってるわ!」と投げやりに叫んだ。

 

俺の中では喜怒哀楽の楽を選んだつもりだったが、怒の感情が声から漏れ出た。

 

 

そんなやり取りをして俺は面接に向かった。

 

面接は非常に形式張った感じで、いろいろな質問をされた。

 

「志望動機は?」「自己PRをお願いします」「学生時代頑張ったことは?」

 

まだぼんやりしている頭でそれに答える。だんだん気持ちが沈んでくるのがわかった。

 

 

 

「趣味は?」

 

 

この質問で少し答えに詰まった。

 

俺の趣味?なんだっけ?

 

あ、ESでは「旅行」って書いたな…それ言わなきゃ…

 

「旅行です」と答え、その理由をお経のように唱える。

 

旅行…今思えば大学生活の旅行は推しがいたからだったな…

 

推しがいなければ1人で台湾なんて行くこともなかったろうな……

 

そんなことを考えてる内に面接は終わった。合否は1週間以内にお知らせするとのこと。

 

面接が終わり、緊張は解けた感覚がする。

 

しかし、心のどこかが欠けている感覚がしてもどかしい。

 

 

帰ろうとしていると急に飲み会に誘われた。即決で参加した。

 

酒の力を借りて忘れようと思ったからだ。

 

実際に飲み会ではベロンベロンに酔うまで飲んだ。

 

その間だけは推しのことは忘れて楽しい時間だった。

 

 

 

翌朝目が覚めてツイッターを見ると、やはりその話題でまだ盛り上がっていた。

 

時間が少し経ったからか、心にぽっかり穴が開いた感覚こそは取れないものの、推しの結婚をどこか他人事のように感じるようになっていた。

 

 

へー。結婚したんだあの人。おめでとー。

 

 

まるで俺が俺ではない別人のように感じた。

 

 

 

寝起きからしばらく経ってだんだん意識がはっきりしてくる。

 

 

散々考え抜いて、俺の考えとしてまとまったのが。

 

 

 

「結婚おめでとう。俺はあなたを推していて誇りに思います。」

 

 

「でも俺はあなたから離れるかもしれない。嫌いになるかもしれない。そんな俺を許してほしい」

 

 

 

これが俺の出した答え。

 

そしてここで冒頭に戻る。

 

『そもそも推しはあくまで"推し"であり恋愛対象ではない…そういうスタンスでいた""つもり""だった。』

 

そう、俺はあくまで恋愛対象としては見てないと思い込んでいた。というより思い込まなければ耐えられなかった。

 

推しは凄く整った顔をしている。さらさらな髪をしている。かわいい声をしている。ライブを見ているとすごく練習したんだな、と感じられるぐらい努力家。ハードなスケジュールもこなせる頑張り屋。

 

惚れないわけがない。

 

俺はその事実に何年も目を背けてきた。

 

ただのガチ恋おじさんじゃねーか、と思ってしまう。

 

ガチ恋を恥じるとは思わないが、届かない星に向かって手を伸ばしてもつかめないものはつかめない。

 

俺はそんなことをしていながら嘘をついてきた。

 

そんな自分に嫌気が差した。死んでしまえとすら思う。

 

俺は今まで嘘をついて推しに向き合ってきた。

 

そんなことをしてでも推しが好きだった。

 

推しが俺のすべてだった。

 

 

推しが誰かのものになってしまった今、とてつもない不安感に襲われる。

 

この何年間、推し中心に生きてきた。イベントも行けるだけ行ったしワンマンは全通もした。海外公演にも行った。

 

でも今の俺に推しを推せるのかわからない。今の俺が推しを応援しても失礼になるのではないかと考えてしまう。

 

 

 

だからもう少し時間が欲しい。考える時間を欲しい。

 

あなたから離れるかもしれない。嫌いになるかもしれない。もう興味も示さないかもしれない。

 

でも今後もあなたを応援し続けるかもしれない。

 

そんな俺を、どうか許してほしい。